誹謗中傷対策の最近のブログ記事

面別接触率とは、「記事」「広告」を問わず特定の面に対して、その新聞の購読者がどの程度接触しているかを示すデータ。

新聞協会の「広告調査分類基準」では、「確かに見た、読んだ」「見た、読んだような気がする」「見た、読んだ覚えがない」の三択で尋ね、新聞購読者のうち「確かに見た、読んだ」「見た、読んだような気がする」と答えた人の比率を「面別接触率」としている。
これにより、特定の新聞における「第1社会面」を「見た、読んだ」人の人数を推計することが可能となる。

読売・朝日・毎日などでは、各社のホームページ上にデータを公表している。

この点については、新聞紙における面別接触率(注)、放送番組における視聴率など、具体的な指標が存在する媒体もあり、これらも参考にして掲載条件を定めることが考えられる。

なお、被告の支配下にある媒体に謝罪広告、取消広告を命ずるにあたっては、その履行が被告自身の手によってなされることになるだけに、掲載条件を明確に定める必要がある。

東京地裁平成7年3月14日判決[園尾隆司コート](判時1552号90頁、判タ872号298頁)は、「謝罪広告の掲載方法については、当裁判所が命ずる趣旨を害しない限度で、まず被告の自由意思を尊重すべきであり、A誌のどの部分に掲載するか、見出しにどのような活字を使い、その体裁をどのようにするか等の掲載の細目については被告に委ねるのが相当である」と述べて、細かな掲載条件を定めずに謝罪広告を命じているが、「裁判所が命ずる趣旨を害しない限度」かどうかについて争いが生じかねないような判断には疑問がある。

広告の掲載場所、活字の大きさ、掲載回数などについて、これまでの多くの裁判例は、元の誹謗中傷殿損記事のボリュームや伝達力のいかんに拘らず、紙面の片隅に小さな謝罪広告を命ずることでよしとしてきた。

掲載回数についてもほとんどの裁判例が1回のみの掲載を命ずるという硬直した運用がなされている。

しかし、謝罪広告、取消広告に十分な効果を与えようとするならば、元の誹謗中傷殿損記事と同等の伝達力のある広告の掲載が認められてしかるべきである。

回復処分の必要性の要件について、裁判例の中には、「謝罪広告については、その性質上、その必要性が特に高い場合に限って命ずるのが相当である」旨の判示をするものもある(東京地判平10年9月25日[田中壮太コート]判時1674号88頁、判タ1004号204頁・番号9、東京地判平12年5月31日[大橋弘コート]判時1733号50頁、東京地判平12年8月24日[森田浩美裁判官]判時1750号107頁、東京地判平14年3月13日[新谷晋司裁判官]判時1781号111頁・番号51、京都地判平14年6月25日[水上敏コート]判時1799号135頁)。

そして、そうすることによって、将来の侵害ばかりでなく、過去の侵害によるXの精神的な損害をも一定程度軽減することができるものと考えられる。

このようにみてくると、本件においては、民法723条を類推適用して被告らに謝罪広告を命ずるのが、損害の原状回復の方法として、有効、適切、かつ、合理的であり、また公平の理念にも合致するというべきである」とした。

学説にも、「実態に即した具体的な考察が必要である」として、プライバシー侵害の場合にも、「断り書きであれば、加害者に強制することが不適当であるとはいえないし、侵害されたプライバシーが本質的に回復されることはないにせよ、補助的手段として否定するまでもない」(和田真一「誹謗中傷X損の特定的救済」「新・現代損害賠償法講座第2巻』[日本評論社]123頁)、「被害者がプライバシーの回復につながると考えて謝罪広告を要求している以上、適切な範囲内であれば認めてよいのではないか」(潮見佳男『不法行為法』[信山社]509頁)とする見解がある。

侵害の態様や損害の性質・内容に照らし、特定的な救済が適切、かつ、合理的であると認められる場合には、誹謗中傷侵害と同様に、金銭賠償に代えまたはこれと共に特定的な救済を認めるのが相当である」とし、「本件肖像権及びプライバシー侵害は、侵害の態様及び損害の性質において誹謗中傷侵害と類似した性格を有していると考えられ(中略)原因事実の本体は、本件写真を多数の読者が認識するというところにあるから、(中略)本件写真がXの肖像権及びプライバシーを違法に侵害するものであり、雑誌に公表することが法律上本来許されないものであることを読者に認識させる方法を採用すれば、読者の本件写真に対する認識の仕方を変えることにより本件写真の社会的な意味を質的に変容させ、もって本件肖像権及びプライバシーの侵害の原因を相当程度減少させることができるものというべきである。

これに対し、東京地裁平成2年5月22日判決[浅生重機コート](武富士会長事件)(本書160頁)(判時1357号93頁、判タ745号192頁)は、写真週刊誌による肖像権とプライバシーの侵害が問題となった事案において、民法723条を類推適用し謝罪広告の掲載を命じた。

同判決は「民法は、誹謗中傷侵害については、侵害の態様が広く将来に渡って継続し、かつ、損害の内容につき金銭的評価が困難であることに照らし、その損害の回復には現実的な損害回復方法である特定的な救済を認めるのが適切、かつ、合理的である場合があるとして、これを許容しているものと解される。

プライバシー侵害の場合については、「宴のあと」事件・東京地裁昭和39年9月28日判決[石田哲一コート](本書157頁)(判時385号12頁、判タ165号184頁、松本昌悦・憲法判例百選(1)〈第4版>138頁)が、「私生活(私事)がみだりに公開された場合に、それが公開されなかった状態つまり原状に回復させるということは、不可能」として以来、消極説を採るものが大勢である(近時の裁判例として、東京高半1」平4年12月21日[岡田潤コート]判時1446号61頁、高松高判平8年4月26日[大石貢ニコート]判タ926号207頁、東京地判平13年10月5日[菊池洋一コート]判時1790号131頁)。

誹謗中傷感情、プライバシーへの適用の可否民法723条の適用範囲は、社会的誹謗中傷の殿損の場合に限られるのか、それとも誹謗中傷感情、プライバシー等の人格的利益の侵害についても適用可能なのか。

誹謗中傷感情の侵害について、最高裁昭和45年12月18日第二小法廷判決[城戸芳彦裁判長]は、「原状回復処分をもつて救済するに適するのは、人の社会的誹謗中傷が殿損された場合であり、かつ、その場合にかぎられると解するのが相当である」として、同条にいう「誹謗中傷」に誹謗中傷感情は含まないとした。

さらに連邦最高裁は、ハスリプ事件(1991、連邦最高裁)(PacificMutualLifeInsuranceCO.v.Haslip、111S.Ct.1032)で、懲罰的損害賠償と修正第14条の「適正手続」条項との関係について連邦B高裁として初めて判断を示した。

連邦最高裁は、アラバマ州の懲罰的損害賠償について裁判所から陪審は適切な説示(juryinstructiOn)を受けていたし、裁判所は同事件以前に同州最高裁によって確立されていた基準に基づいて懲罰的損害賠償の適切性を吟味し評決後再審理(pOst-verdicthearing)を行っているし、同事件の懲罰的賠償額が填補賠償額の4倍を超える程度にすぎないことをカロ味し、違憲とまではいえないと判断した。

この最高裁判決は、その後の実務に大きな影響を与えている。

これらを総じて見ると、被告の不法行為から重大な被害が生じる可能性、被告がこれを認識している程度、被告の行為の有益性と被告の財産状態、被告の不法行為の期間とその隠匿、被告の被害回復行為、並びに、その不法行為の結果、被告に課される他の損害賠償と刑事上の罰金などが挙げられている。

合衆国憲法との関係懲罰的損害賠償は、合衆国憲法との適合性につき論争がなされてきた。

修正第8条の「過度の罰金」との関係では、反トラスト法違反のブローニング・フェリス事件(1989、連邦最高裁)(Browning-Ferrislndus.ofVermont、lnc.v.KelcoDisposal、lnc.、492U.S.257)で、連邦最高裁は、同条の主な狙いは政府の訴追権限の濫用防止にあり、民事の損害賠償は対象でないことを理由に、51、000ドルの填補賠償に対し600万ドルの懲罰的損害賠償は違憲でないと判示した。

最近において高額の損害賠償額が認められた例としては、カリフォルニア州においては、ウエラー事件(230万ドル、ただし懲罰賠償額なし)やソマー事件(330万ドル、内訳は填補賠償額200万ドルと懲罰賠償額130万ドル)などがあり、テキサス州においては、リコ事件(懲罰賠償額150万ドル、現実賠償額65万ドル)、、バック事件(懲罰賠償額130万ドル、現実賠償額60万ドル)などがある。

懲罰賠償額の決定要素アラバマ、カンザス、ミネソタなどでは州法で懲罰賠償額の決定のための要素を規定している。

賠償額の現状全損害賠償額のうちに占める懲罰的損害賠償額の割合は60パーセントを超えているとされ、たとえば、1998年の米国及びカナダの統計結果(トライアルは16件)では、全損害賠償額の中央値は73万7500ドル(約8850万円)であり、填補損害賠償額の平均値は84万5562ドル(約11、x、0147万円)、中央値は58万7500ドル(約7050万円)であり、懲罰的損害賠償額の平均値は71万5000ドル(約8580万円)、中央値は30万ドル(約3600万円)であるとされる(前掲山地14頁)。

懲罰的損害賠償を認めるが一方でその限度額の定めを規定している州もある。

たとえば、州法上、バージニア州は35万ドルの上限が規定されている。

コロラド州とオクラホマ州は、懲罰賠償額は現実損害額を超えないものと規定されている。

さらに、フロリダ州とネバダ州は、懲罰賠償額は填補賠償額の3倍を超えないものと規定されている。

このように、何らかの上限を規定している州は多い。

なお、米国の裁判所は、特定の公式により懲罰賠償額を算定するのを嫌うが、現実の損害額との均衡を保つべきことを示した裁判例は少なくない。

例えば、ニューハンプシャー州は、州法上、懲罰賠償自体が認められない。

また、カテゴリー毎に、個別の立法で対処している州もある。

たとえば、誹謗中傷殿損での懲罰賠償を認めない州としてはマサチューセッツ州などがある。

さらに、衡\/法上の懲罰賠償が認められない州としてネブラス力州(但し三倍額賠償は限定的に可能)、ワシントン州などがある。

各州の制定法で懲罰的損害賠償を認める基準を定めているところもある。

カリフォルニア州は「抑圧(oppression)、欺岡(fraud)または害意(malice)」、テキサス州は「欺岡(fraud)、害意(malice)または重過失(grOssnegligence)」などを挙げている。

懲罰的損害賠償を認める州、認めない州誹謗中傷穀損による損害賠償は州法レベルの問題であり、すべての州が懲罰的損害賠償を認めている訳ではない。

以下、米国における懲罰的損害賠償制度をめぐる実体法・手続法の両方につき、若干の検討を加える。

ω懲罰的損害賠償の機能と基準懲罰的損害賠償は、「非難に値する行為を罰し、その将来の発生を抑止するために私人の陪審員が課す私的な罰金である」とされる(ガーツ事件(1974、連邦最高裁)(Gertzv.RobertWelch、lnc.、418U.S.323、349))。

懲罰的損害賠償には、将来類似の行為が行われることの防止や原告を「私的司法長官」として違法行為を摘発するインセンティブを与えることのほか、傷つけられた原告の感情の賠償という機能がある。

アメリカでは、填補損害賠償部分だけでも相当に高額な賠償額が認められている。

誹謗中傷毅損訴訟は原告の立証が困難な訴訟類型であるため認容される事例はそれなりに悪質なものが多いこと、アメリカの一般市民は興味本位的な記事により売上げを伸ばしている一部メディアの姿勢に対して強い嫌悪感を抱いていることから陪審員はマスメディアに対して厳しい見方をする傾向があることなどの事情が指摘されている(山地修「誹謗中傷毅損の損害額の算定について」判タ1055号14頁)。

総論米国の不法行為による損害賠償制度については、填補損害賠償(COmpensa-toryDamages)と懲罰的損害賠償(PunitiveDamages、E×emplaryDamages)に大別され、このうち前者は、一般的損害賠償(GeneralDamages)と特定損害賠償(SpecialDamages)に分けられる。

現在では、イギリス、アメリカとも慰謝料は現実損害として填補賠償の中で考えられており、懲罰的損害賠償とは一応区別されている。

従前の誹謗中傷A損訴訟においては、被害者の属性、被害の甚大さ、マスコミ側の動機、記事掲載内容をほとんど考慮することがなかった。

これに対し、近時の実務・裁判では上記点数表に記載された算定要素を考慮して、損害額の具体的認定がなされているといえ、点数表は誹謗中傷殿損訴訟における類型化、高額化傾向に寄与しており、このこと自体は、評価に値する。

また、点数表の1点10万円の算定により、マスコミ側の悪質な商業目的のセンセーショナルな誹謗中傷報道に対しては、ある程度高額の損害賠償が認められるようになってきていることも一定の評価がなされるべきであろう。

しかし、一部週刊誌等が意図的な誹謗中傷X損報道を続け、敗訴判決が重なっても改まらないという現状において、点数表に基づく損害賠償額はまだまだ低額に過ぎるといわざるをえない。

また、損害賠償額の上限金額が計算上「1、010万円」にとどまることも問題であろう。

傾聴すべき意見であるが、公共性・公益目的を充足する報道であり、かつ確実な裏付け取材を行ったものであれば、賠償責任を免責されることになるのであるから、賠償額の高額化は、マスコミへの萎縮的効果とは関係ないというべきである。

マスコミが市民の信頼を勝ち得るためには、慎重な報道姿勢こそが重要である。

現在のマスコミの報道姿勢に鑑みるとき、上記見解はかえって誹謗中傷R損的表現行為を誘発する可能性すらあり、賛成できない。

いわゆる点数表の算定基準との関係司法研修所は、「損害賠償実務研究会結果要旨」(判タ1070号4頁)において、誹謗中傷x損裁判における損害額について、点数評価方式による算定基準を設ける試論を公表した。

誹謗中傷R損の高額化について、表現の自由に対する萎縮的効果(chillingeffect)を与えないよう配慮すべきとの見解も存在する。

例えば、右崎正博「市場化する誹謗中傷殿損訴訟と表現の自由」(法苑140号1頁)は、これまで高額の損害賠償を命じた判決の大半が政治家、プロ野球選手、女優、その他社会的に相当な地位にある著名人のケースであることから、「高額の賠償金は、公人や公的存在に対する批判的言論あるいは公共的関心事に連なる表現や報道に萎縮的効果を生み、表現や報道を抑制させることになりかねない」とし、「そのような者に関してなされた表現や報道に対して高額の損害賠償によって不法行為責任を問う場合には、その表現や報道が真実ではなくまたは誤信相当性がないことの立証責任を、誹謗中傷殿損の被害者であると主張する当該公人ないし公的存在の側に負担させることが必要であると考えている」としている。

「誹謗中傷殼損による損害賠償額の算定」(NBL731号6頁)では、上記塩崎論文を指摘しながら、精神的苦痛に対する賠償としての慰謝料については、交通事故の場合の慰謝料の目安が参考になるとした上で、「慰謝料100万円では現在では低額にすぎ、500万円程度が一つの目安になる」とする。

そして、慰謝料算定の要素として、加害者側の事情を考慮することを検討し、制裁的慰謝料論や無形的損害の金銭的評価と民事訴訟法248条の利用、誹謗中傷回復処分との関係などを検討した結果、「誹謗中傷R損による損害賠償額の算定について提言するとすれば、損害賠償額の算定は究極的には一般国民の法意識に由来し、近時のこの点に関する各種論稿を踏まえて国民の意識の高揚が期待されるところであるが、精神的苦痛に対する慰謝料としては500万円程度を目安とし、加害者側の事情も考慮して算定すべきであり、それ以外にも慰謝料には無形的損害に対する賠償としての側面があることも考慮して、民事訴訟法248条を活用し、加害者の受けた利益や誹謗中傷回復に要する費用等も視野に入れて、適切な誹謗中傷回復処分との関係にも留意して総合的に算定すべきである」とされる。

誹謗中傷X損訴訟の慰謝料算定にあたっては、「違法性及び被害の程度に留意し、また、慰謝料の補完的機能に着目し、純粋慰謝料だけでなく、社会的信用の低下、人格権の侵害、営業的損害、財産的損害、原状回復のための金銭賠償、弁護士費用の各項目を検討の上で、損害額を算出することが大切である点に留意するならば、著名人に対する全国的な伝播性のある誹謗中傷段損行為に基づく損害賠償の額としては、とりあえずの基本額として400万円から500万円程度を一つの目安とすることができるのではなかろうか」と提言し、「これを一応の目安とした上で、誹謗中傷A損行為の伝播性の大小、被害者の社会的信用・著名性の大小、報道態様の悪質性の有無、報道目的の正当性等の減額要素など、諸般の事情を考慮して、事案に応じた適正な損害額を算定していくことが相当」と結論づけている。

「マスメディアによる誹謗中傷畏損訴訟の研究と提言」(ジュリ1209号63頁)においては、慰謝料を精神的損害に対する賠償に限定せずに、慰謝料の補完的機能に着目し、(i)社会的信用、人格権の侵害、(ii)営業的損害、財産的損害、(lll)原状回復のための金銭賠償、(iv)弁護士費用などを補完的機能として考慮すべき損害としている。

そして、純粋慰謝料とその他の慰謝料を厳密に区別することが困難であることから包括的慰謝料として認定し、その際、民訴法248条を活用する方法を提案している。

「損害賠償客則こおける損害額の算定平成13年度損害賠償実務研究会結果要旨(2001年5月17日開催)」(判タ1070号4頁)も、500万円程度を平均基準額とすることも一つの考え方であり、実務的にも参考になるとする。

上記司法研修所の損害賠償実務研究会に参加した坂本倫城大阪地裁判事(当時)は「損害賠償実務研究会を終えての若干の感想」(判タ1070号25頁)と題する論文の中で、多数の発行部数を擁するマスメディアによる現実の悪意をもってなされた悪質な誹謗中傷殿損事件の類型については、完全に表現の自由の範疇外にあるものとして、おおよそ500万円ないし1、000万円を超える損害賠償としてその抑止を期するべきとした上、現実の悪意によらないマスメディアによる誹謗中傷殿損事件とマスメディアによらない誹謗中傷R損事件について、最近の人格的な価値に対する社会一般の評価の高まり、マスメディアの影響力の増大、後遺障害慰謝料との対比や最近の裁判例の動向などに照らして、いわゆる従来の100万円程度の賠償額から500万円ルールにシフトさせるべきであるとされる。

「フォーカス」の誹謗中傷X損事件については、警視庁牛込署が誹謗中傷R損の疑いで発行元である新潮社の社長と当時の編集長、取材や執筆を担当した記者らを書類送検したことが大きく報じられた(ただし、後に告訴は取り下げられた)。

悪質な誹謗中傷殿損行為が後を絶たない事態に鑑みると、悪質な誹謗中傷X損行為を繰り返させないためには、賠償額に制裁的な要素を加味し、さらなる高額の賠償が認められなければならないといえる。

直接記事に関与しないはずの社長個人の責任が問われることは、極めて異例のことであり、判決に示されるように、「フォーカス」の取材・報道行為に関し違法行為が繰り返されていることから、社長は、従来の組織体制につき疑問を持って再検討し、肖像権の侵害や誹謗中傷殿損となる基準を明確に把握して違法行為が発生し被害が生ずることを防止する管理体制を整えるべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったことから職務の執行につき重過失があったとして、社長個人の責任まで認めたものである。

平成15年10月30日、東京高裁は賠償額の増額を認め、新潮社に対し計1、980万円の賠償を支払うよう命じ、最高裁第二小法廷[滝井繁男裁判長]は新潮社の上告を棄却し、東京高裁判決が確定した(平成16年10月2日付朝日新聞)。

また、刑事被告人の法廷内の姿を無断撮影した写真を「フォーカス」が掲載した事件では、大阪地裁は660万円の賠償金を命じ(大阪地判平14年2月19日[岡原剛コート]判タ1109号170頁・番号49、ただし大阪高判平14年11月21日[大喜多啓光コート]では440万円に減額・番号58、その後、最高裁(最一小判平17年11月10日[島田仁郎裁判長]は、本書162頁のとおり、イラスト画の公表につき、一部適法であるとし、さらに損害について審理を尽くさせるため、原審に差し戻した))、しかも、この事件については、新潮社と編集長のみならず、同社の社長に対する賠償請求も認められた。

熊本市の医療法人の理事長の妻と同法人が経営する病院の看護師ら4名が乗った車が崖から転落して全員が死亡するという事故に関し、理事長の妻に多額の保険金がかけられていたことから保険金目当てで理事長が事故に関与したかのような記事を掲載した「週刊新潮」に対し、平成14年12月27日に熊本地裁(番号59)が合計で990万円の賠償を認め、さらに、同趣旨の記事と写真を掲載した写真週刊誌「フォーカス」については、平成15年4月15日に東京地裁が誹謗中傷X損と肖像権侵害により合計1、320万円もの高額の賠償を命じた。

新潮社は、裁判所の数度の損害賠償命令を受けながらも、悪質な誹謗中傷殿損記事を掲載し続けるとともに、中吊り広告などによって宣伝を繰り返しており、今日でも新潮社に対する誹謗中傷X損事件の提訴は後を絶たない。

最近の週刊誌における誹謗中傷A損事件の認容された賠償額について、出版社別に見てみても、新潮社が他の週刊誌に抜きん出て認容されていることが明らかである。

このような事態は、悪質な誹謗中傷殿損に対する賠償額が、徐々に高額化傾向にあるものの、やはりまだ低額に過ぎるために生じていることは否定できない。

多くの判決例が指摘するように、これら週刊誌は販売部数を伸ばすために、電車の中吊り広告を利用し、結果的に広く読者に誹謗中傷X損事実を知らしめるものとなっており、誹謗中傷X損記事によって大きな利益をあげていることも考慮して賠償額を決定していると考えられる。

裁判所は、このような週刊誌による誹謗中傷X損に対して、近時、ようやく一定程度の高額な賠償を認める傾向にあり、特に週刊誌による人権侵害に対して積極的な歯止めをかけつつある。

しかし、週刊誌の中でも、とりわけ週刊新潮や平成13年に廃刊された写真週刊誌「フォーカス」などを発刊している新潮社は、その誹謗中傷殿損記事による損害賠償を命じた判決数は飛び抜けて多い。

最近の誹謗中傷殿損が認定され賠償額の支払いを命じた判例を調査した巻末一覧表によると、75件中週刊誌による誹謗中傷X損は37件と約半数を占める状況となっている。

特に賠償額が高額化してきた平成13年以降の判決例をみると、誹謗中傷殿損事件において、300万円を超えるような賠償を命じられているのは、週刊誌によるものがそのほとんどである。

それらの判決を概観すると、公益目的が存しないもの、あるいは、たとえ公益目的が存しても相当性が存せず取材方法も杜撰で悪意をもって誹謗中傷殿損記事を掲載したものばかりである。

なお、その際、アメリカ法で採用されている、公的人物ないし公共の関心事の法理は、日本では、プライバシーと表現の自由との比較衡量をする際の考慮要素として機能しているといえる。

以下、被害者の同意、公的人物ないし公共の関心事の法理、比較衡量論について検討する。

自己決定権は、アメリカでは、上記のとおり、プライバシーの保護範囲に含まれており、日本では、これを含めて考えるか否かについて、見解の一致をみない。

4プライバシーと免責要件(段)(1)はじめにプライバシー権は自己の人格権に基づくものであるから、それを公表することにつき本人の同意があれば、プライバシー権の侵害には当たらない。

同意がない場合、表現の自由とプライバシー権の調整をどのように図るべきかが問題となるが、判例は、両者の比較衡量により違法性の有無を決するという判断枠組を採用している。自己決定権は、アメリカでは、上記のとおり、プライバシーの保護範囲に含まれており、日本では、これを含めて考えるか否かについて、見解の一致をみない。

はじめにプライバシー権は自己の人格権に基づくものであるから、それを公表することにつき本人の同意があれば、プライバシー権の侵害には当たらない。

同意がない場合、表現の自由とプライバシー権の調整をどのように図るべきかが問題となるが、判例は、両者の比較衡量により違法性の有無を決するという判断枠組を採用している。

最高裁(最三小判平12年2月29日[千種秀夫裁判長]民集54巻2号582頁、佐久間邦夫・最判解説平成12年度(上)187頁、判時1710号97頁、判タ1031号158頁、潮見佳男・平成12年重要判例解説〔別冊ジュリ1202号〕66頁参照)は、「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない」として、自己決定権を認め、金55万円の賠償を認めた二審(東京高判平10年2月9日[稲葉威雄コート]判時1629号34頁、判タ965号83頁、駒村圭吾・平成10年重要判例解説〔別冊ジュリ11572号〕10頁)を維持した。

自己決定権(エホバの証人輸血事件)宗教上の信念から輸血を受けない「エホバの証人」の信者である原告(控訴人、被上告人。

その後死亡し相続人ら)が、その意思に反して輸血をされたことに対し、自己決定権等を侵害されたとして、医療機関側に金1、200万円を請求した。

東京地裁平成5年7月23日判決[富越和厚コート](判タ840号167頁)は、「前科」は一度は公表されていることから通常想定されているプライバシーの類型とは異なるが、前科は人の誹謗中傷、信用に直接関わる事項であり、犯罪者が刑の執行を受けた後は社会への復帰、更生のために前科の秘匿については特に保護が与えられるべきであるとしてプライバシー性を認め、本件については判決で公表された後更に1年4か月余経過した後に本件記事が掲載されたこと、公開を受忍させるのが相当であると認められないとして、プライバシー侵害を認め、誹謗中傷殿損と併せて金30万円の賠償を認めたものがある。

同様に収入源(年収)や家計を公表することが問題となった事例として、東京高裁平成13年7月18日判決([近藤崇晴コート]判時1751号75頁)がある(ただし、公益法人の役員に関する記事であったことから公表の公益目的が認められ、また、情報の入手方法や仮名報道であること、表現方法等が考慮されて被告の責任は否定された)。

まして、そのような収入の源泉からの具体的な収入金額については、その公表を欲しない事柄に属することは多言を要しない」として、年金の受給及び受給額をプライバシーと認め、金10万円の損害賠償を認めた(なお、月平均2万円を書籍購読料として支出している事実については、原告の人格的価値に対する評価を高めこそすれ、その低下を招くような性質のものとはいえず、一般人の感受性を基準とすると、それが公表を欲しないと認められるような事柄に当たるとは認め難いとして請求を退けた)。

この判断は二審(東京高裁平成6年(ネ)第3727号)でも維持されている。

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