2013年2月アーカイブ

一方、妻が犯人であるとの報道は真実性、相当性がないとして、誹謗中傷殿損の成立を認め、新潮社に金200万円、毎日新聞社に金70万円、小学館に金40万円、朝日新聞社に金30万円、扶桑社に金50万円、文藝春秋に金60万円の賠償を認めたが、謝罪広告の掲載は認めなかった)。

東京地裁平成6年1月31日判決[原田敏章コート](判タ875号186頁)は、肖像権の侵害につき、原告が夫殺害の容疑で逮捕されたことは、公共の利害に関する事実であり、逮捕後保釈された際の原告の写真は肖像権侵害とはいえないが、ミス平凡の水着写真は必要性相当性がないとして肖像権侵害を認めた(なお、離婚の争いはプライバシーであると認めたものの、原告と夫との離婚の争いに関する記述は、夫の殺害事件の背景をなす事実ないしは被逮捕者たる原告に関する事実であるので、「公共の利害に関する事実」であり、本件記事は違法性が阻却されると判示した。

昭和62年4月、ロサンゼルス在住の伊藤忠元ロス支店長が行方不明となる事件が発生し、妻と長男が逮捕された事件に関して、写真週刊誌「フォーカス」(新潮社)、週刊新潮(新潮社)、サンデー毎日(毎日新聞社)、写真週刊誌「タッチ」(小学館)、週刊朝日(朝日新聞社)、週刊サンケイ(扶桑社)、週刊文春(文藝春秋)が、妻である原告がN家の出身で華族であること、夫婦仲が最初から悪かったこと、離婚の争いや原告の出自、原告が昭和31年に「ミス平凡」に選ばれたときの水着写真と逮捕後保釈された際の自宅前の写真を掲載したことから、原告が誹謗中傷R損・プライバシー・肖像権侵害を理由に、新潮社に金4、000万円と謝罪広告、その他の被告に金2、000万円と謝罪広告を求めた事案である。

これに対し、「被上告人が手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれた」「イラスト画を公表する行為は、被上告人を誹謗中傷し、被上告人の誹謗中傷感情を侵害するものというべきであり、同イラスト画を」「記事に組み込み、本件写真週刊誌に掲載して公表した行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて、被上告人の人格的利益を侵害するものであり、不法行為法上違法と評価すべきである」と判示した。

肖像権が保障される根拠に照らせば、イラスト画であっても肖像権を侵害する場合がありうるのは当然のことであり、最高裁はその当然の事理を明らかにしたものであるが、その違法性の判断基準を初めて示した意義は大きく、今後、同種事案のリーディング・ケースとなるだけではなく、マスコミの取材、報道に対する重要な指針となるものと思われる。

イラスト画については、写真とは異なり、「その描写に作者の主観や技術が反映するものであり、それが公表された場合も、作者の主観や技術を反映したものであることを前提とした受け取り方をされるものである」との特質を指摘し、イラスト画の公表が社会通念上受忍の限度を超える違法なものか否かの判断に当たっては、「写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない」として、「我が国において、一般に、法廷内における被告人の動静を報道するためにその容ぼう等をイラスト画により描写し、これを新聞、雑誌等に掲載することは社会的に是認された行為である」との判断を示し、これによれば、被上告人(注:刑事被告人A)が訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態が描かれた2枚のイラスト画を記事に組み込み、フォーカスに掲載して公表した行為については、社会通念上受忍すべき限度を超えて被上告人の人格的利益を侵害するものとはいえないとした。

最高裁(最一小判平17年11月10日[島田仁郎裁判長]平成15年(受)第281号損害賠償請求事件)は、「人は、自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても、これをみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当である」と判断した上、容ぼう等を被撮影者の承諾なく撮影することが違法か否かの判断基準について初めて言及し、「被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」とした。

一審(大阪地半1」平14年2月19日[岡原剛コート])は、「個人の容貌や姿態等の情報を獲得する手段が写真であるかイラスト画であるかは肖像権侵害の有無を決定する本質的な問題とはいえず、イラスト画による容貌の描写であっても、その描写の正確性・写実性故に、そこに描かれた容貌がある特定の人物のものであると容易に判断することができる場合、すなわち、イラスト画が人物の特定機能を果たす場合には、当該イラスト画は、その個人との関係で、肖像権を侵害するといわなければならない」との判断を示し、金440万円の慰謝料の支払を命じた。

この判断は二審(大阪高判平14年11月21日[大喜多啓光コート])でも維持された。

肖像権が保障される実質的根拠に照らせば、イラスト画であっても肖像権を侵害する場合がありうるのは当然のことであり、上記裁判例は、その当然の事理を明らかにしたものである。

イラストによる肖像権侵害肖像権は、これまで写真撮影ないし公表により侵害されるケースがほとんどであったが、近時、イラスト画によっても肖像権侵害が成立することが確認されている(「フォーカス」イラスト肖像権事件(大阪地判平14年2月19日[岡原剛コート]判タ1109号170頁、大阪高判平14年11月21日[大喜多啓光コート]平成14年(ネ)第1010号))。

事案は、刑事被告人A女が、新潮社発行の写真週刊誌「フォーカス」に掲載された同女の法廷内写真を掲載した記事が同人の肖像権を侵害すると主張し、新潮社等を相手取って訴訟提起(第1事件)したところ、その後「フォーカス」がさらに同女のイラスト画、第1事件を椰楡する内容の記事を掲載したことから、同女が肖像権侵害、誹謗中傷X損されたとして、新潮社及び編集長に対して不法行為、新潮社の取締役に対して商法266条の3による損害賠償責任を理由に、慰謝料の支払と謝罪広告の掲載を求めたものであった。

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