ネット誹謗中傷の最近のブログ記事

論争の過程における誹謗中傷殿損と表現の自由「思想の自由市場」論に象徴的に表れているように、表現の自由の保障は、論争の過程が市民の自由に委ねられることを要求する。

ある主張に対して自由に反論する機会が保障されることは、いわば表現の自由の生命線である。

しかし他方、議論における反論というものは、しばしば論争の相手方の人格にまで矛先を向け、その誹謗中傷を不安に陥れる。

アリストテレス(Aristoteles前384~前322)は、言論による説得を、ロゴス(logos、論理)、エートス(ethos、話し手の品性・人柄)、パトス(pathos、聴衆の感情・情念)の3つの要素から説明している。

この論に則していえば、議論における反論も、(1)相手方の主張に対する論理的な反論、(2)相手方の品性・人柄に対する非難、(3)情報の受け手の感情・情念に訴えかける反論という3つの観点から分析することができる。

純粋な意見

| コメント(0)

アメリカでは、伝統的に、事実と意見を区別して、純粋な意見は誹謗中傷段損の対象とならないと考えられていた。

たとえば、ガーツ(Gertz)事件では傍論ではあるが、「修正第1条においては誤った思想は存在しない。意見が有害にみえても、その是正のために、裁判官や陪審員の良心ではなく、他の思想との競争によるほかない。しかしながら、誤った事実の表明に憲法的価値は存在しない」(判例集339-40頁)とされていたがごとくである。

ところが、連邦最高裁が、1990年(平成2年)、誹謗中傷段損において意見と事実とを画一的に区分して判断するという立場に対して歯止めをかけたのがミルコヴィッチ事件である。

その事案は次のとおりである。

1974年2月、オハイオ州のメイプル・ハイッ高校のレスリング部が他校と対抗試合の際、レフェリーの判定をめぐり乱闘となり生徒が怪我をするという事件が発生した。

そのためオハイオ高校運動連盟が同校の試合出場停止命令を発したが、親らが州地裁へ命令差し止めを求めた結果、同裁判所から命令を取消す旨の決定がなされた。

しかし、決定翌日、被告(新聞社)が、「メイプル高校、『大嘘』で法律を破る」との見出しのもと、同校の教師兼レスリング・コーチであったミルコヴィッチが審理中になした証言をとりあげ、「試合を見ていた者は、ミルコヴィッチ...が、真実を述べるという厳粛な宣誓をしたにもかかわらず嘘をついたということをはっきり理解している」との記事を掲載した。

これに対し、ミルコヴィッチが新聞社と記事の著者を相手に誹謗中傷x損訴訟を提起した。

新聞、雑誌等のメディアによって誹謗中傷殿損がなされる場合において、メディアに情報を提供した者(情報提供者)についても、誹謗中傷殿損による不法行為が成立するかどうかが問題となる。

原則として、情報提供者において、提供した情報がメディアに掲載されることを認識していれば、共同不法行為(民法719条)が成立しうると考えられる(藤岡康宏「誹謗中傷R損における情報提供者(私人)の責任」判タ613号83頁)。

大阪地裁平成10年3月31日判決[渡邉安一コート](本書42頁)は、官公庁による情報提供の場合について、「それが一定の信頼度を置くことのできる情報で公共の利益に直結し、かつ、報道の迅速性を要することから、報道機関が逐一発表内容の裏付け取材をすることなくそのまま報道されることが多いので、情報提供者においても当該提供情報に即した記事が掲載される蓋然性が高いことを容易に予見できる」と判断している。

このように、情報提供行為が官公庁による場合には、情報提供者の情報提供行為とネット誹謗中傷R損という結果との間の因果関係は肯定されやすく、原則として、情報提供者にも不法行為が成立するといえる。

大阪高裁平成14年11月21日判決[大喜多啓光コート](平成14年(ネ)第1010号)本件は、刑事事件の被告人であるXが、新潮社(Y1)の発行した写真週刊誌「フォーカス」に掲載されたXの法廷内写真を主体とする記事(第1記事)によって肖像権を侵害されたと主張してY1及び「フォーカス」の編集長であったY、に対し、不法行為を理由に慰謝料等の支払と謝罪広告の掲載を求める(第1事件)とともに、第1事件の訴えを提起した後の「フォーカス」に掲載された原告のイラスト画と第1事件を提起した原告を椰楡する内容の記事(第2記事)が原告の肖像権を侵害し、誹謗中傷を段損したなどと主張し、YlとY、に対しては不法行為を理由に、Y、の代表取締役であるY、及び取締役であるY、ないしY、に対しては商法266条の3による損害賠償責任があることを理由に慰謝料等の支払と謝罪広告の掲載を求めた(第2事件)事案である。

このアーカイブについて

このページには、過去に書かれたブログ記事のうちネット誹謗中傷カテゴリに属しているものが含まれています。

次のカテゴリは誹謗中傷対策です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。