論争の過程における誹謗中傷殿損と表現の自由「思想の自由市場」論に象徴的に表れているように、表現の自由の保障は、論争の過程が市民の自由に委ねられることを要求する。
ある主張に対して自由に反論する機会が保障されることは、いわば表現の自由の生命線である。
しかし他方、議論における反論というものは、しばしば論争の相手方の人格にまで矛先を向け、その誹謗中傷を不安に陥れる。
アリストテレス(Aristoteles前384~前322)は、言論による説得を、ロゴス(logos、論理)、エートス(ethos、話し手の品性・人柄)、パトス(pathos、聴衆の感情・情念)の3つの要素から説明している。
この論に則していえば、議論における反論も、(1)相手方の主張に対する論理的な反論、(2)相手方の品性・人柄に対する非難、(3)情報の受け手の感情・情念に訴えかける反論という3つの観点から分析することができる。
大阪高裁平成14年11月21日判決[大喜多啓光コート](平成14年(ネ)第1010号)本件は、刑事事件の被告人であるXが、新潮社(Y1)の発行した写真週刊誌「フォーカス」に掲載されたXの法廷内写真を主体とする記事(第1記事)によって肖像権を侵害されたと主張してY1及び「フォーカス」の編集長であったY、に対し、不法行為を理由に慰謝料等の支払と謝罪広告の掲載を求める(第1事件)とともに、第1事件の訴えを提起した後の「フォーカス」に掲載された原告のイラスト画と第1事件を提起した原告を椰楡する内容の記事(第2記事)が原告の肖像権を侵害し、誹謗中傷を段損したなどと主張し、YlとY、に対しては不法行為を理由に、Y、の代表取締役であるY、及び取締役であるY、ないしY、に対しては商法266条の3による損害賠償責任があることを理由に慰謝料等の支払と謝罪広告の掲載を求めた(第2事件)事案である。