ウェスティンホテルお泊り暴露事件
ウェスティンホテルお泊り暴露事件とは
「ウェスティンホテルお泊り暴露事件」は、ソーシャルメディアとモラル――という問題が注目されるきっかけとなった事件です。
2011年1月11日、ウェスティンホテル東京(東京・恵比寿)のレストランで、アルバイトの女子大学生が、食事に訪れた有名人カップルについてツイッターでつぶやきます。内容は、2人の実名を挙げデートを報じただけでなく「今夜は泊まるらしい」という宿泊情報を付け加えたものでした。
一般人によって暴露されたこのスクープを受けて、ネットでは炎上が勃発。書き込んだ女子学生の身元や大学名などが次々とさらされ、最終的に同ホテルが、総支配人名で謝罪文を出すという事態にまで発展しました。
従業員のツイッター発言で交際発覚
身内へのサービスのつもりが…
問題を起こした女子大学生は、事件以前にも有名人の来店情報などをたびたび自身のツイッター等で公開していました。ワイドショーやタレントブログの影響で、私生活をのぞかれることも仕事の一部と思われがちな芸能人。本人からしてみれば、仲良し友だちへのちょっとしたサービスのつもりだったのかもしれません。
この夜レストランに来店したのは、有名サッカー選手と人気モデルの二人でした。
▼アルバイト女子学生の暴露ツイート▼
稲本潤一と田中美保がご来店 田中美保まじ顔ちっちゃくて可愛かった…今夜は2人で泊まるらしいよ お、これは…(どきどき笑)
衝撃のスクープ
当時まだ交際情報は出ていなかったビッグカップルの来店に、女子学生は宿泊情報までを盛り込んで発信してしまいます。11日22時40分のことです。
彼女の出した衝撃の“スクープ”はツイッター内で次々とリツイートされ拡散していきました。同時に、情報の真偽を確かめるべく、書き込みをした犯人探しも始まります。投稿から4時間後の翌2時40分、2ちゃんねるに初スレッドが立ち、ネットユーザーたちの祭りが始まりました。
2ちゃんねらーの調査力見せつけられる
深夜の祭りは盛り上がり、犯人のツイッターのプロフィールや過去の書き込み内容から、勤務先がウェスティンホテル東京22階(テナント)の鉄板焼レストランであることを特定。「ホテル従業員による、あるまじき情報漏えい」に、批判の書き込みが急増します。
アカウント名などから、mixi、facebookの存在も明らかになり、実名とプライベート写真が流出。在籍する大学や過去に通っていた高校、予備校なども容赦なくさらされました。
炎上を巻き起こすネットユーザーたちの調査能力はスピーディです。騒動を時系列に見ていくと、数時間で女子学生の個人情報が特定されていることがわかります。
事件の流れ
11年1月11日 22:50 |
問題のツイート |
1月12日 02:40 |
2ちゃんねる(ν速)に最初のスレッドが立つ |
02:40 | Twitterプロフィールから学部確認 |
03:07 | Twitterの登録リストから女子学院卒であることを確認 |
03:13 | アカウントのtkngから苗字を類推 |
03:15 | mixiアカウント発見、参加コミュから09入学の中央大、予備校は早稲田塾と発覚 |
03:15 | Twippleの写真からウェスティンホテル東京を確認 |
03:17 | Google検索により、中央大学理工学部、洋弓部に氏名を確認 |
03:20 | 昨年の対戦相手、明大アーチェリー部の試合記録にて中央大に氏名を発見 |
03:36 | 過去のツイート「22階から見る景色」「忙しかった。そんなに高級鉄板焼きが食べたいか」との発言から、勤務先「恵比寿」確認 |
03:37 | Twitter,TwilogともWEBページの内容を、画像として保存する「魚拓」化 |
03:57 | facebookアカウント発見、最初の顔写真 |
04:05 | mixiアカウント名変更 |
04:05 | Twitterアカウント削除 |
04:20 | facebookアカウント削除 (これにてこれらのアカウントが同一人物であることが確実視される) |
05:30 | ガジェット通信、ロケットニュースが本件についての記事を掲載 |
06:05 | 芸スポ板に最初のスレッドが立つ |
06:47 | 既婚女性板に最初のスレッド |
12:55 | 卒業アルバムの写真がUPされる |
16:48 | MSN産経にニュース掲載 |
17:22 | Yahooニュース掲載 |
21:05 | ウェスティンホテル東京 総支配人からお詫び掲載 |
削除しても間に合わず
騒動を察知した女子大学生の対応も決して遅いものではありませんでした。炎上から約2時間半後の4時過ぎには、ツイッター、mixi、facebookのすべてのアカウントを削除しています。
しかし、そのことが皮肉にも、先回りして写真や“魚拓”を確保していたネットユーザーたちに、アカウント所有者が同一人物=犯人であることへの確証を与える結果になってしまいました。
犯人を突き止めたネットユーザーたちの祭りは深夜にも関わらず大盛り上がりをみせ、一時、女子学生のフルネームがGoogleの急上昇ワードに挙がったほどでした。
雇い主のウェスティンが動いた
総支配人名での謝罪文をウェブに掲出
翌日午後、主要メディアによる熱愛スクープとともに、情報源がホテル従業員によるツイッター暴露であったことが掲載されます。それを受けてウェスティンホテル東京は同日21時5分、公式ホームページ上に総支配人名義での謝罪文を掲出しました。
▼ホテルが公式ウェブサイトに掲載した謝罪文(2011年1月12日)▼
[総支配人より] お詫びとご報告
お客様各位
平素はウェスティンホテル東京へ格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
このたび、弊社のアルバイト従業員がお客様のレストランご来店情報をブログ等で流出させていたことが、2011年1月12日に判明いたしました。
関係者の皆様及びお客様には多大なご迷惑とご心配をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。
・経緯について
弊社では社員・アルバイトにかかわらず全ての従業員は、入社時にお客様情報の守秘義務等に関する研修を行った上、誓約書への署名をしております。しかしながら、当該従業員は個人のツイッターアカウントより、特定のお客様がホテル内レストランへ来店されたことについて発信していたことが判明いたしました。
・今後の対応について
このたびご迷惑をお掛けした方々には、既にご報告の上、お詫び申し上げております。
また、当該従業員には厳しい処分を下すと共に、全従業員へのお客様情報の守秘義務等に関する教育を再度徹底し、再発防止に全力を挙げて取り組んでまいります。
このたびは、皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしましたこと、改めまして深くお詫び申し上げます。
今回の事態を厳粛に受け止め、今後このようなことが発生しないよう、再発防止に努めると共に、信頼回復に向けて邁進していく所存でございますので、今後ともご愛顧を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
総支配人
アンドレアス・トラウトマンスドルフ
名門ホテルの信頼が失墜
顧客の来店情報をアルバイト従業員が漏えいした事実を認めて謝罪するもので、事件の経緯、今後の対応についても細かく記載したものでした。
アルバイトにも守秘義務に関する研修を行っていた、というのがホテル側の釈明ですが、問題の女子学生はこれまでにも何度も来店者に関する書き込みを行っており、匿名とはいえ、就業規則に反したことをしているという自覚があったとは思えません。
さらには、「来店情報」だけでなく「宿泊情報」までを1アルバイトが知り得たという、組織自体のコンプライアンスへの不信感も呼び、名門ホテルの信頼は一瞬で失墜したといえます。
ホテルへの損害総額は数億円とも
報道後、ネット上には「ウェスティンともあろうホテルが…残念すぎる」「有名人がこっそり泊まるには避けた方がいいホテル」など、今回の不祥事を嘆き、揶揄するコメントが続々アップされました。
相手が学生ということもあり、損害賠償訴訟までは行われなかったようですが、同ホテルがこの事件によって受けたダメージは金額にして数億円ともいわれます。
また、2年経った今も、Googleで「ウェスティンホテル東京」を検索すると、関連キーワード上位に「ツイッター」など漏えい事件を回想させるものが挙がります。顧客のプライバシーを守ることが第一のはずのホテルにとって、これほど大きな被害はないかもしれません。
アルバイト女子学生への誹謗中傷
SNSを日記がわりに使っていた
この事件では、当該の女子大学生が複数のSNSを日記がわりに使っていたことから、容易に書き込んだ個人が特定されました。
勤務先情報を皮切りに、本名や誕生日、卒業校(中・高、予備校)、大学・学部名と所属クラブ、さらには学籍番号、保有資格などの情報までもが流出し、成人式の着物姿の写真や友人たちと撮ったプライベート写真は見世物のようにさらされたのです。
女性には耐え難いあだ名まで
ひとたび流出した個人情報や写真は掲示板やまとめサイトに次々と転載され、モラルを問う抗議は一転、容姿をなじるものや、家族の個人情報にも言及する誹謗中傷へと形を変えました。
事件の日のカップル以外にも、複数の著名人の来店についても漏えいしていた彼女を、当時流行った「ウィキリークス」を文字って「ブスリークス」、その運営者の名にちなんで「日本のアサンジ」と呼んだりもしました。
彼女が犯したことは擁護のしようがありませんが、その後ネットユーザーたちによって女性には耐えがたい精神的被害を受けたことは確かです。そしてそれらの誹謗中傷情報は、いつまでも消えることなくネット世界に生きつづけているのです。
実名公開によって絶たれた夢
ウェスティンホテルの謝罪文に「厳しく処分」とあることから、事件後、おそらく女子学生は解雇処分となったでしょう。その後、実名がさらされてしまった彼女は新しいアルバイト先を見つけることができたでしょうか?また、希望の就職先を受けることができたのでしょうか?
将来はオリエンタルランドで働きたいと夢みていた女子大学生が、不用意に行った書き込みが引き金となった今回の事件。刑事責任やホテルからの賠償請求は免れたとしても、彼女の大切な夢は絶たれてしまいました。
入籍報道でふたたび炎上が…
ネットにおける風評被害の特徴として、いったん鎮火しても何かの話題をきっかけに再燃するということが言えます。
お泊りデートを暴露されたこのカップルは、事件から1年と10ヶ月後の2012年12月、晴れて入籍を発表しました。それを報じるマスメディアや個人の発信者たちがこぞって見出しに採用したのが「ツイッター騒動乗り越え」「“つぶやかれた”モデルと結婚」など、事件を思い起こさせるフレーズでした。
そしてめでたいニュースの裏で、ふたたび女子学生(当時)の実名とホテル名を含む書き込みが相次ぎ、ネット世界では2次的な炎上が起こっていたのです。