トンボ鉛筆メール事件

トンボ鉛筆メール事件とは

2011年3月13日、東日本大震災の発生でさまざまな情報が錯綜するネット内で、事件は起きました。「トンボ鉛筆」の人事担当者が、入社希望者に向けて送信した1通のメールが掲示板サイト「2ちゃんねる」で公開され、その“上から目線”の文面にネットユーザーたちからの非難の声が続出。果てには、メール送信者である採用担当者の個人情報までも公開されて叩かれてしまうという、メールを発端とした誹謗中傷事件です。

採用担当者が無神経なメール

就活中の学生に完全な「上から目線」

メールが送信されたのは3月13日当日。震災から2日後の社会を思い出してみると、テレビからCMが消え、ニュース番組では地震、津波による目を覆うような映像が流し続けられ、誰もが明日を憂うような状態でした。ネット上での発言についても、安易な言葉は不謹慎と、慎重になるムードにありました。

そんな背景で起きたこの事件。入社志望の一部学生に対し、トンボ鉛筆の採用担当者が履歴書とエントリーシートを添付したメールを一斉送信したのですが、書類選考に進むための提出期限が「3月15日」と喫緊したものであったにも関わらず、メール文面には、配慮はおろか、傲慢ともとれる言葉遣いが散見されたのです。

▼トンボの採用担当者が学生向けに送ったメールの内容▼

こんにちは、トンボ鉛筆のsです。改めて地震の方は大丈夫でしたか? このメールを配信した中には、被災されている方が多数いると思います。 直接的な力にはなれないですが、 私自身、都内から自宅のある埼玉まで徒歩で8時間かけて 帰宅して、実際の東北の方に比べる程のものではないですが被災の怖さを感じました。

さて、先日は咄嗟のメールだったので、返信しなくても大丈夫ですからね。 会社は大丈夫です。揺れは大きかったですが、今のところ大きな事故・怪我の連絡は入っていないです。

本当は週明けに全員に送ろうと思っていたメールです。 こんなことくらいしか出来ませんが、履歴書とESをお送りします。

ただ、非常に厳しい条件をつけさせていただきます。 その条件とは1点だけです。

書類選考を希望される方は、添付の専用履歴書とエントリーシートをご確認いただき、 3月15日(火)消印有効でその2枚をセットにし、下記までご郵送ください。

直前に説明会へ予約が出来た場合は、ひとまず書類持参でお越しください。 会場で通り一遍等の説明・指示はします。 その指示が難しい場合は・・・その先は言う必要ないですよね。 自分で考えてみてください。

皆様にも言いたいこと、不満があるのは重々承知していました。 全部ではありませんが、私も様々な心の奥にある声を見て・聞いています。

説明会予約者の方へは、先に書類を渡すと言うメリットを 与えました。 皆さんには与えてません。 ただ、もし、この間、トンボ鉛筆への情熱を絶やさずに おられた方がいた場合、それが文章となり、私達へ伝達して くれると期待をしています。 (伝える努力はしてくださいね。伝えるって本当に難しいです。)

その気持ちを作り上げることは、 予約している人よりも皆様方の方が可能性があると思います。 ましてや、こんな状況下です。

書類に関してのご不明な点はあれば メールでお問い合わせください。

すみません、私自身まだ気持ちの整理が出来ないでいますので 変な文書になっているかもしれません。

学生がそのままネットに投稿

震災後、かつ、就活中ということで精神的にナーバスになっていた学生の一人を、このメールが怒らせます。学生は、文面をそのまま2ちゃんねるに投稿。それを見た就活生や被災者たちの怒りと非難の声を呼び、同スレッドはたちまち盛り上がりました。

2ちゃんコミュニティが反応

2ちゃんねるの書き込みには、トンボ鉛筆担当者からのその他のメール文面や、発端となったメール送信者の個人情報までがさらされました。メールという1対1の閉じられたメディアの情報が、ネット上で公開され、個人の誹謗中傷にまで発展してしまったというのが、この事件の大きな特徴です。

中でも、書類提出が間に合わなければ直接説明会への参加も可、としながらも「指示が難しい場合・・・その先は言う必要ないですよね。自分で考えてみてください。」という一文が物議をかもしました。可か不可か、そもそも何が言いたいのか真意がわからない上に、「その先は言う必要ない」などという“上から目線”の発言。有名企業の一社員の、この滑稽なまでの非常識な文面が、炎上に加担するネットユーザーたちの格好のターゲットになったことは言うまでもありません。

翌日にすかさず謝罪文

しかし、2ちゃんねるおよびネット上での誹謗中傷は、翌日には収束へと向かいます。その抑止力となったのが、14日、トンボ鉛筆の公式サイトのトップページに掲出されたお詫び文でした。

▼トンボ鉛筆の謝罪文▼

3月13日付 件名「トンボ鉛筆選考専用履歴書・エントリー送付」に関するお詫び

日頃から弊社へ格別のご理解を賜りまして深く御礼申し上げます。

さて、平成23年3月13日付で、弊社人事グループ担当社員より発信しました弊社採用活動に関する文書の中に、不適切かつ配慮に欠く表現が多々ありましたことを深くお詫び申し上げます。

先ず、東日本大震災発生の2日後に、罹災した地域への配慮を欠いたかたちで書類選考用紙等をメールし、締切を15日消印有効としたことは言語道断であります。また、随所に平等を欠く表現もありました。さらに、弊社担当者の立場上の驕り昂ぶりが現れた言葉遣いが随所にあり、重ね重ねお詫び申し上げます。

早速、公に発信する文書の事前社内校閲ルールを設置し、再発を防止してまいりますと同時に、当該担当者を厳しく指導しました。

改めてこの度、不適切かつ配慮に欠く文書を発行しましたことを深くお詫び申し上げます。

平成23年3月14日

トンボ鉛筆 総務部ゼネラルマネージャー

●●●●(実名)

上司が部下のメールをチェックする体制へ

謝罪文は、ゼネラルマネージャーの実名入りで、震災後という時期への配慮を欠いた締め切り設定、学生への平等を欠いた文章表現、そして担当者の傲慢な発言について、具体的に記述がなされました。この迅速、的確な謝罪と、「当該担当者を厳しく指導」「公に発信する文書の事前社内校閲ルールを設置」など、再発防止策についても明らかにしたことが、世間の納得を得られたものです。公に発信する文書の事前社内校閲ルールを設置とは、社員のメールをしっかりと上司がチェックするということです。さらに同日中に、学生たちへもお詫びメールを送信しました。

▼トンボ鉛筆の学生向けの謝罪文▼

3月13日付 件名「トンボ鉛筆選考専用履歴書・エントリー送付」に関するお詫び 学生の皆様へ

平成23年3月14日

トンボ鉛筆 総務部ゼネラルマネージャー

●●●●(実名)

日頃から弊社へ格別のご理解を賜りまして深く御礼申し上げます。

さて、平成23年3月13日付で、
弊社人事グループ担当社員より発信しました
弊社採用活動に関する文書の中に、
不適切かつ配慮に欠く表現が多々ありましたことを
深くお詫び申し上げます。
先ず、東日本大震災発生の2日後に、
罹災した地域への配慮を欠いたかたちで
書類選考用紙等をメールし、
締切を15日消印有効としたことは
言語道断であります。
また、随所に平等を欠く表現もありました。
さらに、弊社担当者の立場上の驕り昂ぶりが
現れた言葉遣いが随所にあり、重ね重ねお詫び申し上げます。

つきましては、平成23年3月16日に
開催を予定していました会社説明会は
延期させていただくことにいたしました。
理由は、電力問題でライフラインに
支障をきたす危険があるためです。
そのため15日の消印有効としました
書類送付締切も無効とさせていただきます。
会社説明会の実施日は決定次第ご連絡申し上げます。

弊社は人材の発掘に努めており、
定時採用をたいへん重んじております。
書類選考の段階から役職者が加わり、
最終選考では役員が加わり、
全社的に平等かつ公平にこれを運用しておりますが、
採用担当者の発信文書の管理に問題がありました。

早速、公に発信する文書の事前社内校閲ルールを設置し、
再発を防止してまいりますと同時に、
当該担当者を厳しく指導しました。
改めてこの度、不適切かつ配慮に欠く
文書を発行しましたことを深くお詫び申し上げます。

メールは怖い

トンボ事件が教えてくれたのは、メールの怖さです。メールは極めて個人的なツールであるだけに、その一通一通を企業がチェックして送信するというのは現実的に難しいことです。しかし、あらゆる「1対1」の発言が「企業」対「社会全体」の発言になるという、言葉の重みと怖さをあらためて考えさせられる事件です。

採用担当者への誹謗中傷

氏名などの個人情報が流出

この事件では、採用担当者の問題の一斉メール全文が2ちゃんねるに掲出されたことで大バッシングが起こり、間もなくメールの署名のコピーも公開されます。署名には、フルネームとメールアドレス(採用専用)が明示されており、その後、部署には抗議と誹謗中傷の電話、メールが殺到したことが予想されます。

不買運動の呼びかけも

尾をひくように、担当者からの私信や、別の一斉メールも複数転載。2ちゃんユーザーからはトンボ鉛筆という会社本体への批判や不買運動の呼びかけ、さらに問題の担当者に対して「こんなやつはクビ」「○○を殺せ、自殺まで追い込め」などという暴言までが飛び出しました。こういった個人を攻撃する中傷発言は、2ちゃんねるのみならず、ツイッターなどでも展開されています。

写真が公開される

また、ネット上では、就職サイト用に使われたものであろう、当該担当者を含む人事研修グループ3人の写真も流出。メール等から抽出したそれぞれの本名も公開されました。

経営者の不祥事がぶり返される

担当者本人がSNSやブログを開設していなかったのか、本人の個人情報が深く掘り起こせなかったことから、人事部メンバーへの非難やトンボの元社長が覚せい剤所持で有罪判決を受けたことへの言及など、水平展開での誹謗中傷が続いたことが特徴といえます。

企業のイメージダウン

ネガティブイメージが残る

迅速・的確な謝罪と対応で収束したと思われたこの事件。本当にもう終わったのでしょうか?

Google検索がたいへんなことに

Google検索で「トンボ鉛筆」を調べると、検索候補として「採用」「人事」が上位に現れ、そのまま進むと、公式の採用ページを筆頭に、1ページ目の10件のうち6件が事件に関連するものという結果です。内容は、当時の2ちゃんねるの掲示板であったり、そのコピーサイトであったり、また事件について書いた個人のブログであったりします。2年という時間をかけても、この状況では人々に事件を忘れさせません。

▼Googleの検索候補(上から)(2012.11.7現在)▼

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関連検索ワードで被害

また、トップページに表示される関連検索キーワードでは、「謝罪」「震災」「炎上」などという言葉が目につき、企業イメージに大きな影響を与えています。人間の心理として、こういったネガティブワードほどその先を見たくなるため、いつまでたってもアクセスが減らず残留しつづけてしまうのです。

▼Googleの関連検索キーワード(2012.11.7現在)▼

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ヤフーの虫眼鏡

ヤフーの虫めがねで上下に表示される「人事」の先は、上位8件が事件に関するサイトという状況で、これでは同社に就職を希望する学生がその先に進もうと思うのかも疑問です。

▼ヤフーの虫めがね(2012.11.7現在)▼

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「その先は言う必要ないですよね」が影の企業フレーズに

さらにこの事件では、担当者からのメールの一文「その先は言う必要ないですよね」に非常にインパクトがあり、炎上時に繰り返し引用されたことも、今なおイメージを払しょくできない要因になっています。たとえばその後も、新商品リリース、新CIの発表、新年度の採用活動開始を受けて、「その先は言う必要ないですよね」というフレーズをからめた皮肉なスレッドが立っています。

企業名や個人名だけでなく、こうした発言もネット上に残り続けます。ニュースが出るたびに引用される、企業の裏キャッチフレーズとなってしまうのです。